弁護士がいらなくなる日


今日はHLSのバークマンセンターの主催で、The End of Lawyers?の著者であるRichard Susskindのレクチャーがあった。刺激的なタイトルであるが、趣旨は、クライアントの高まる要求のなかで、情報共有ツール等が一種のdisruptive technologyとなって、弁護士がクライアントにサービスを提供する形態はここ数年で大きく変わるだろう、という(まあ比較的穏当な)内容。

日本の事務所では、事務所内で使える契約書の共通フォーム(典型的な場合のモデル契約だけでなく、どういう場合はどう変える、といった注記が付せられている)やスタンダードメモランダムを作っているのがせいぜいである(そしてそれすらもあまり進んでいないのが現状)と思うが、大規模化が最も進んでいるイギリスの事務所では、(一定の種類の契約については)契約書生成プログラムが作成されているし、KPMGなどの会計・税務事務所では、それらプログラム自体を有償でクライアントに提供するサービスも進んでいる。さらに、コモディティ的なものについては、無償で提供されるようになるのではないか。弁護士からの反応として個々の案件は特殊であり一つ一つアワリーチャージで処理していくべきとの反論があるが、案件の内容は分離可能であり、多くの部分はシステマティックに処理することができるはず。オーストラリアやUKのように法律事務所が上場したりPEの投資を受け入れたりすれば、そのような業務の効率化も弁護士がやっていたのよりもはるかに速いペースで進んでいくはずだ、といった主張。
日本での実務の経験に基づいてちょっと考えてみると、契約交渉の結果キーとなる条項は力関係やら案件特殊の事情によって決まってきて、必ずしも合理的でない妥協をすることもある。新しい案件でドラフトをつくるときは、その辺を割り引いたり足したりして契約書を作らないといけないが、このへんは、多くの場合、一番下のアソシエイトがとりあえず前の案件をベースにドラフトして、シニアな弁護士がレビューする、という過程を経るなかでやっているだろう。理想的には案件が終わるたびにそういう細かなニュアンスも含めて記録して、共有できればいいのだが、実際は他の案件が忙しすぎて(あるいはアワリーチャージというインセンティブ構造のせいで?)そのような作業はなかなか行われづらい気がする。究極的には、クライアント、競業他社からのプレッシャーによりいずれは変わって行かざるをえないのだろうが、当面、事務所内ブログやら、twitterWikiといったツールを使ってできないだろうか?

更新: 不況によって、たくさんの時間働いて稼ぐというアソシエイト弁護士のワーキングスタイルが変わりつつあるという記事を紹介したエントリがあったのでリンク:
元企業法務マンサバイバル : 変わり行くリーガルプロフェッションのあり方
レバレッジをたくさんきかせて若い弁護士に時間のかかる仕事をたくさんさせてもうけるというビジネスモデルは、早かれ遅かれ衰退していく、というSusskind氏の議論と整合的に理解できるだろう。不況がそれを加速しているにすぎない、と。単にローファーム全体として仕事が減るというよりは、混乱した経済環境においては、いわゆる伝統的な弁護士の業務形態=テイラーメイドでやらないとできない(しかし若手の力はそれほど必要としない)難しめの案件が増えてくるため、三角形の鋭角がだんだん小さくならざるをえないということ。とはいえ、誰もがみんな最初は若手なわけで、いわゆるリピートの案件を繰り返してはじめて難しいことができるようになる。その意味で場合によってはクライアントがそのぶん負担していたことになろうが、それを解消するとして、じゃあどうやって育てるのか。Susskindがいっていた情報共有ツールへの初期投資などと同じように、人的投資のアップフロントの負担を内部で吸収する必要がでてきて、法律事務所も(人員的でなく)資金的なレバレッジをきかせる必要が出てくるのだろうか。そうなると、(もちろん弁護士法等の改正が必要になるけれど)外部資金の受け入れも当然の選択肢として出てくるのだろう。これ、そんなに遠い先の話ではない気がする。

The End Of Lawyers?: Rethinking the Nature of Legal Services

The End Of Lawyers?: Rethinking the Nature of Legal Services

PS:
1ヶ月以上も更新せずにおりすいません。ブログを書く精神的余裕がなくなっておりました。。。